広告右往左往

ダイアリーからこちらに引越しました。新しいものはポチポチ書こうと思っています。相変わらず広告屋のおっさんのしがないぼやきでしかありませんが、よろしかったらどうぞ~

マーケティングがdigitalであるという事

ここのところ、ちょっと考えていた事の塊なので、あまり整理はついていない話ですのであしからず。

マーケティングを取り巻く環境とか技法が、ここ数年大きく変化していると言う事に関しては異論はないと思う。(ある人もいるかもしれないけれど)
テクノロジーや情報・通信の環境、或いはハードウエアの変化が、マーケティングにまつわる様々な事が「digital」と言う波の中に飲み込まれることで、それまでの「常識」や「技法」が通用しにくくなっている。
消費者データと言う一側面を見ても、それまでのデータがコンベンショナルなリサーチと言う技法を使った、パーセプションベースのサンプル調査だったのに対して、購買者の全数データ、そして購買履歴と言う行動データを手に入れることが、比較的容易に出来るようになった事により、それまで「こうなんじゃないかな?」と仮説的にしか捉えられなかった消費者が、行動と言うリアルな形を伴って説得力高く提供されるようになる基盤が整いつつある。

マーケティングと言う概念は、そもそもmass production, mass sales, mass consumption, mass disposalと言う事を前提として成り立っていた考え方で、いろんな意味での「大衆」「大量」をいかに「効率よく」達成するかが課題だったはず。
その進化の歴史の間にセグメンテーションや差別化と言った要素も出てきて、「ターゲットに合わせてきめ細やかに対応する」と言った事にもトライされていたけれど、実際問題は「効果と効率」と言う事を考えた時に、どこまでそれを追求することが出来ていたか、甚だ疑問なところもあると思う。
「ターゲットの志向を捉えたヒット商品」と言ったものも、結果としてある程度の「規模の経済」を担保するものであったのは事実だろう。(そでうなければビジネスは成り立たないはず)

しかし、digitalな手段を使って、マーケティング・コミュニケーションを成立させるだけでなく、実際に商品と消費者が接触するコンタクトポイントまでをECと言う形で完結し、「販売」までもdigitalプラットフォームの上で成立させるモデルが成立するようになってくると、極論すれば個々人のニーズに合わせた形の情報や商品をダイレクトに消費者に届ける文字どおりの「one to oneマーケティング」がビジネスとして成立できると言う基盤が出来て来たと言えるだろう。
この事は、「マーケティングがdigitalになった事」のわかりやすい側面だと思うし、実際そういう事が起きてきているから、私のような広告会社の人間はより厳しい立場に置かれている(とほほ)と言う事になっているのだろう。

しかし、マーケティングがdigitalになったことによって起きている本質的な変化は、もう少し違うところにあるのじゃないかなと最近思っている。
それは、最終的な商品やサービスの受け取り手である「ターゲットを捉える概念を変える」と言う事にあるのじゃないかと言う事だ。
マーケティングにおいて消費者(或いは生活者なんて言い方で広告屋は上手く言いぬけようとするけれど・・・)は、「Target=標的」とされていて、極論すれば概念としては「自分の商品やサービスを買ってもらうために狙いを定めた”獲物”」と言う捉え方なんだと思う。
そしてそれはあくまでもその商品なりサービスなりのマーコム・バリューチェーンの「終点」であり「出口」になっている。
(もちろんお客様の意見を吸い上げて製品開発にフィードバックせねば!と言うような事は昔からされてはいるけれど・・・)

digitalなフィールドのマーコム・バリューチェーンの上では、むしろ「消費者」はそのバリューチェーンの中の大切な一つのピースとして機能する「構成要員」と言う事を前提として考えるべきなんじゃないだろうか?
digitalなフィールドでの情報流通は基本的にフラットなものであり、従来のマーコム戦略の前提であった、メーカー側が商品に関する情報を多く持っていると言う「情報の偏在性」(どこか一か所に大量の情報が偏在して情報格差が生じる事)を前提にしたマーケティングだけでは通用しなくなっている。
従来はマスメディアの広告と言う情報フォーマットに乗った情報を受け手である消費者が受け取ることで成立していたコミュニケーションも、インターネットの上に展開されている多くの集合知を「検索する」と言う手段や、twitterfacebookと言った「ソーシャルメディアを通じての情報の受発信」と言う行為などの新たな情報流通手段によって補完、代替されてきている。
従来は「受け手」として標的とされていた消費者自らが、情報の発信者側に回ることが可能になり、マーコム・バリューチェーンの中に影響を与える「参加者」に変化を遂げていると見ることが出来るのではないだろうか?

上記のような事を考えてくると、マーケティングはメーカー、流通業者、消費者、(場合によっては「社会」と言ったもっと大きな概念も)と言った、商品やサービスの製造から消費に関わるステークホルダーを包含するエコシステム(生態系)の設計を念頭に置いて考えるべきだろう。
そして、私たち広告会社がフィールドとするコミュニケーションにおいても、消費者はけして「標的(ターゲット・オーディエンス)」ではなく、そのエコシステムの重要な「パートナー」として、どのようにコミュニケーション・バリューチェーンの中で機能を担ってもらうかと言う視点、指標で戦略を考えてゆくことが必要になっているのだと言う事を痛感している。

やー、しかし難しい時代になりました。
でもね、今まで「絵空事」のように思っていたような事が実際に出来ると言うところまで、テクノロジーやインフラは整ってきていると言う事だと思うと、ワクワクもしているのですけれどね・・・