広告右往左往

ダイアリーからこちらに引越しました。新しいものはポチポチ書こうと思っています。相変わらず広告屋のおっさんのしがないぼやきでしかありませんが、よろしかったらどうぞ~

「広告」と言う概念、「広告会社」と言う業態

先日、広告に関する学会に参加してきた。自分が関与している業界に関する学会と言う事もあり、少しばかりのお手伝いをしている事もあって、「全国大会」と言われる集まりには出かけている。
前々から、学会に参加していわゆるアカデミックの先生方のご研究を拝聴しているときに、なんとなく現場の感覚との乖離と言うか、違和感を感じてはいたのだけれど、ある事情で自分も「研究論文」と言うものを書かなければいけない羽目になって、初めて「なるほど研究と言う事で捉えると、実務の課題の中からぐっとテーマを絞り込まないと論文にならないのね」と言う事は理解が出来たつもりでいたし、そう言った目で見ると、学術論文の世界で展開されている理論やフレームワークを、実務に持ち込む時のポイントと言うかメリットもわかるようになり、全くの実務家よりは少しはアカデミックの世界を理解出来るようになっているは思っていた。
でも、今回全国大会で先生方の発表をお聞きしていると、今まで以上の違和感を覚えてしまい、なんだかちょっと大丈夫だろうか?と感じていたのは、どうも「広告」と言う事や、「広告会社」と言う事が今まで考えられてきたような枠組みだけで捉えるのが無理になってきていると言う事に起因しているのでは?と思い至った。

誤解を恐れずに言えば、今までの広告およびその周辺の研究は、マーケティングとクリエーティブの周辺を研究すれば良かったのだと思う。実際自分がちょこっと書いた研究論文でも、統計的な手法は使ってモデリングなどはしたけれど、その域を全然超えていない。
でも、今の広告会社の実務の世界では、この二つ(マーケティングとクリエーティブ)にプラスして、テクノロジー(を用いたソリューション)に対してのリテラシーを持てないと戦えなくなってきていると実感していて、このテクノロジーを意識に入れたアプローチがアカデミックの世界では全くと言って良いほどなされていない感じがしてならなかった。
学術研究や論文は、実務の世界の中のある部分に研ぎ澄まして研究をしてゆかないと、研究としての成果を出しにくいと言う事は重々承知の上で見ても、やはり実務の中で課題として捉えられており、論理的な背景を求めているような課題に切り込んでゆくと言う事が、現実の広告および広告会社の実務から乖離してしまって、アカデミックサイドで出来にくい状況になっているのではないのかなと言う気がした。

翻って、我々実務サイドも本当に新しい広告会社の枠組みに踏み出せているのか?と問われれば、「まだまだ」と応えざるを得ないだろう。
従来、「コミュニケーションの領域での課題とアカウンタビリティを負う」事が広告会社のビジネスドメインである、と言う旧来型のニーズはほとんどのクライアントさんで少なくなっており、「最終的な事業(ブランド)の成功について、パートナーとして働く」と言う事を求められる事が当たり前になってきている。
この事を前提にするのであれば、旧来型のキャンペーンプロデューサーやプランナー、クリエーターと言ったスキルを超えた、ビジネス・デベロップメントや事業戦略構築、或はMI(マーケティング・インテリジェンス)を駆使した戦略立案、と言った機能を備えてゆかないと、高い付加価値を提供するパートナーとして認めてもらう事が出来ないと言う局面が、既に訪れているのだと思う。

今秋、東京で開催されたad:tech Tokyoでの「データシェアリング」をテーマにしたセッションで、パネリストであったクライアントサイドの方がおっしゃっていた、「エージェンシーとのデータシェアリングはもはや必然」「但し、エージェンシーサイドの都合の良いデータだけをシェアリングするのではなく『同じ船』に乗ってもらわないと困る」とおっしゃっていたのが強く印象に残っている。
クライアントサイドの課題意識を、本気でいっしょに背負える覚悟を「意気込み」だけではなく、「痛みをも分かち合える」形で背負ってゆく本格的な体制と装備を一番早く準備できたところが、新しい広告会社として生き残れるのだろうなと痛感をしている。